(Suzuki, T.N., 2021)の”Animal linguistics: Exploring referentiality and compositionality in bird calls”を読みました。鈴木先生の研究は「ダーウィンが来た」*1 で特集を見たときから、ずっと気になっていまして、今回やっと先生自身による著作を読むことができました。

 読書記録として感想・疑問点をまとめようとます。このページを読む前に感想ページの投稿方針 も読んでいただけるとありがたいです(_ _)

※キャッチアップ画像は Laitche. (2016). “Japanese tit in Suita, Osaka.”. retrived from Wikipedia Commons

目次

読んだ文献

Suzuki, TN. (2021). Animal linguistics: Exploring referentiality and compositionality in bird calls. Ecological Research, 36, 221– 231. https://doi.org/10.1111/1440-1703.12200

この論文は、オープンアクセスの論文で、Creative Commons Attribution Licenseに基づき、適切に引用していれば、あらゆる媒体での使用、配布、複製が許可されています。


*1 先生が出られていたエピソードの紹介ページ
「聞いてびっくり!鳥語講座」 – ダーウィンが来た! – NHK

概要

Establishing the theory of language evolution is an ongoing challenge in science. One profitable approach in this regard is to seek the origins of linguistic capabilities by comparing language with the vocal communication systems of closely related relatives (i.e., the great apes). However, several key capabilities of language appear to be absent in non-human primates, which limits the range of studies, such as direct phylogenetic comparison. A further informative approach lies in identifying convergent features in phylogenetically distant animals and conducting comparative studies. This approach is particularly useful with respect to establishing general rules for the evolution of linguistic capabilities. In this article, I review recent findings on linguistic capabilities in a passerine bird species, the Japanese tit (Parus minor). Field experiments have revealed that Japanese tits produce unique alarm calls when encountering predatory snakes, which serve to enhance the visual attention of call receivers with respect to snake-like objects. Moreover, tits often combine discrete types of meaningful calls into fixed-ordered sequences according to an ordering rule, conveying a compositional message to receivers. These findings indicate that two core capabilities of language, namely, referentiality and compositionality, have independently evolved in the avian lineage. I describe how these linguistic capabilities can be examined under field conditions and discuss how such research may contribute to exploring the origins and evolution of language.

 言語の進化に関する理論を確立することは、科学上の現在進行形の課題である。この点において、有益なアプローチの一つに、言語を、近縁種(すなわち大型類人猿)の音声コミュニケーションの体系と比較するというものがある。しかしながら、ヒト以外の霊長類には、言語に重要ないくつかの能力が存在しないようであり、このことが、単純な系統学的な比較研究などの研究の幅を狭めている。そこで、より有益なアプローチは、系統学的には離れた動物たちの中に収斂特徴を見出して、比較研究を行うことにある。このアプローチは、言語能力の進化に関する一般的な規則の構築に特に有効である。本稿では、鳥類の一種であるシジュウカラ(Parus minor)の言語能力に関する最近の知見について概説する。フィールド調査によってシジュウカラはヘビに遭遇した際に発する独特の鳴き声を発し、それは鳴き声を聞いたものがヘビに似た物体に対して視覚的な注意を喚起するのに役立っていることが明らかになった。さらに、シジュウカラは頻繁に意味を持った別々の鳴き声を、一定の順序で組み合わせて、構成されたメッセージを伝えていることが分かった。これらの結果は、参照性と構成性という言語の中核をなす2つの能力が、鳥類の系統で独立に進化してきたことを示している。本稿では、これらの言語能力をフィールドで調べる方法について説明し、このような研究が言語の起源と進化の探求にどのように寄与するのかについて論じる。

注:英文は筆者自身による抄録ですが、和文は投稿者による翻訳です。

特に面白かった点

 今回特に面白かったのは以下の3つです。今まで、ヒト以外の動物のコミュニケーションについては、確かに面白そうだなとは思いつつも、それらを「言語」として一括りにすることができるのか、或いはそのような動物での発見がヒトの言語に何か示唆を与えることはできるのかと懐疑的だったので、言語の収斂進化を観察するというこの論文の姿勢は新鮮で、目から鱗でした。今まで言語の進化についてはほとんど読んだことがなかったのですが、今回とても興味を持ったので、何か概論的なものから読みたいなぁと考えています。

  • 言語の収斂進化的特徴を研究している
  • 指示機能があることを示す実験設定

言語の収斂進化的特徴を研究している

 ヒトの言語を研究・分析しようとするとき、チンパンジーやボノボといった近縁種ならともかく、シジュウカラといった系統的に大きく離れた種のコミュニケーションについて研究するのは有効なのでしょうか。クジラも歌を歌うんだよとか鳥にも言語があるんだよなんか言われると非常に魅力的に聞こえますが、それがヒトの言語の研究に役立つのかは正直、不明瞭です。

 この論文ではこの点について「言語」を収斂進化的な特徴だと捉えることで解決を試みています。収斂進化とは、とても大雑把に言うと異なるグループの種が同様の環境で進化・適応した結果、たとえ系統的に大きく異なる生物同士であっても同じような形質を備えることです(図1)。進化というと単一の祖先から多様な形質を持った子孫が生まれるというようなイメージがありますが、実際には放散していくばかりでなく環境によって収斂することもあるということです。

 話を言語に戻します。言語を収斂進化的な特徴とみるということは言語をヒト或いはその近縁種が獲得した固有の形質と見るのではなく、ヒトや鳥などの高度なコミュニケーションの必要性に迫られた種が結果的に獲得した、これらの種の間に共通する形質と見るということだろうと思います。私が不勉強なだけですが、この視点は全く考えたことがなかったのでとても魅力的に感じました。ただ、それならば言語のどの部分を収斂進化的な特徴とし、どの部分を種固有の特徴だとするのかということをきちんと議論しないといけないだろうと思います。

図1)収斂進化の解説(アザラシ・セイウチの例*2

*2アザラシ・セイウチがもともと別のグループであったか、それとも同一のグループであったかついては議論があります。

指示機能があることを示す実験設定

 言語が支持機能を持つ、つまりある形式が単なる感情の表れではなくて何らかの意味を持つものなのだということはどうすれば示すことができるでしょうか。これについては論文中に多くの文献があげられているように、これまでも様々な方法が考案されてきたようですがそれぞれ不足・批判があり、単なる感情の表れではないということを示すことは案外難しいのだなと思いました。

 この論文ではこの点をとてもユニークな実験で示そうとしています。詳しくは論文そのもの(Suzuki, T.N., 2021)を読んでいただくのが分かり易いですが、ここでその一部を簡単に述べると、シジュウカラに対して他の個体の蛇に対する警戒音を流し、蛇のように動く木の棒への反応を分析するというものです。警戒音を聞いたシジュウカラは周囲を警戒して、木の棒をめざとく見つけて接近する一方、蛇に対する警戒音以外の音を聞いたり、木の棒が蛇のように動いていなかったりする場合には木の棒に興味を持たないんだそうです。これは蛇に対する警戒音を聞いた個体がその頭に「蛇」に関する何らかの心象を持っていないと起きないであるため、蛇に対する警戒音は蛇を見つけた個体の単なる感情の吐露ではなく、「蛇」という意味・指示機能を持っているというわけです。

疑問点

 今回、疑問に思ったのは以下の2つです。

  • 今回の発見は言語の進化の理論にどのように応用できるのか
  • シジュウカラ以外の動物に、同様の実験が行えるか

今回の発見は言語の進化の理論にどのように応用できるのか

 論文では前章に書いた指示機能の他に統語機能(文法)についても論じています。それでは仮に今回の発見が全て正しいとして、このような発見は言語の進化の理論にどのように役に立つのでしょうか。例えば、今後はその他の生物にもこのような機能が見られるかという研究があり得るかも知れません。実際に論文でもその他の生物における指示機能についても述べています。しかし、収斂進化の研究だというなら、一体どのような環境が原因となって「言語」という形質が選択されたのかという議論があって然るべきだろうと思います。こういう問題を考えるための手段としてはヒト以外の言語に関する分析はまだまだ不十分で、これからなのではないかなと思います。生意気ですね。

シジュウカラ以外の生物に関する実験・記述が進むか

 上に書いたように言語の収斂進化的な特徴を調べるにはより多くの生物のコミュニケーションについて調べる必要があると思いますが、ふと鳥のコミュニケーション或いは音声コミュニケーションのみが偏って分析されてしまうのではないかと思いました。というのもシジュウカラはたまたま音声によるコミュニケーションを活発*3に行っているわけですが、ミツバチのダンス然り、音声に寄らないコミュニケーションを行う生物はたくさんいます。言語の指示機能や統語機能といった抽象的な機能を収斂進化的な特徴だとして研究するのならば、それは音声コミュニケーション以外のコミュニケーションの中に見られる可能性もあるわけで、本来であればそのような各種のコミュニケーションを観察していく必要があるのだと思います。しかし、「活発に話しているように見えるトリの音声コミュニケーションはヒト言語のような性質を持っているはずだ」というような動機・契機で研究が進むとそれは達成されないだろうと思います。分析の対象とする種、コミュニケーションに対するバイアスに注意してまずは記述的な態度で挑むということが重要なのかもしれないなと思いました。

*3少なくともこの論文を読んだ印象として「活発に」

参考資料

記事中の参考文献

先生が出られていたエピソードの紹介ページ
「聞いてびっくり!鳥語講座」 – ダーウィンが来た! – NHK

読んだ文献中の参考文献

こちらから”References”を確認してください。
https://doi.org/10.1111/1440-1703.12200