外国人に自分の母語の発音を教えるときあなたならどのように教えますか?
私自身、英語の授業で r は舌が口のどこにもくっつかないけど、l は舌が上顎にくっつくんだよと習いました。これは二つの違いの説明としては的確で分かり易いです。しかし、 l とは舌がくっつく音であるというのは l という1つの音の説明としては余りに不十分です。勿論、舌がくっつく音は l 以外にも沢山あるわけです。
では音声を他人に説明するために必要十分な要素は一体いくつで、それはなんなのでしょうか?今回は国際音声記号による子音の発音の記述方法を紹介します。
目次
子音の発音
国際音声記号では、子音の発音を有声性、調音点、調音方法という3つの要素で説明します。
国際音声記号とは国際音声学会が世界中の言語を文字で表記するために考案したものです。記号には子音の他にも母音、アクセントやイントネーションなどを表わすものもあります。
有声性
有声性とは声帯の振動の有無を表わす属性です。声帯が振動するもの、しないものとで下の2つの音に分かれます。
- 有声音:声帯が振動するもの
- 無声音:声帯が振動しない物
調音点
調音点とは調音が起きている場所、つまり発音時に口腔内で狭まっている(あるときは閉鎖している)場所のことです。口の先から順に下の11点があります。
- 両唇
- 唇歯
- 歯
- 歯茎
- 後部歯茎(硬口蓋歯茎)
- そり舌
- 硬口蓋
- 軟口蓋
- 口蓋垂
- 咽頭
- 声門
c.f. 歯茎硬口蓋(前部硬口蓋)
調音方法
調音方法とは調音を行う方法、つまり、発生時に口腔内のある点を狭める、(あるときは閉鎖する)方法のことです。通常日本語には表れない音も含めて下の9つの方法があります。
- 破裂音(閉鎖音):声道を調音点で完全に閉鎖し、一気に開放して呼気を出す。
- 鼻音:口腔を調音点で完全に閉鎖し、鼻から呼気を出す。
- ふるえ音:調音点で舌などを2回以上震わせる。
- たたき音(はじき音):調音点を舌で軽く1度触れ、弾く。
- 摩擦音:声道を調音点で狭め、隙間から呼気を出す。
- 側面摩擦音:舌で口腔の中央を閉鎖し、側面から呼気を出す。
- 接近音:上下の調音器官を接近させ、やや狭い隙間に声帯音を共鳴させる。
- 側面接近音:舌で口腔の中央を閉鎖し、側面の隙間に声帯音を共鳴させる。
- 破擦音:声道を調音点で完全に閉鎖し、開放して隙間から呼気を出す。
※声道:声の通り道のこと
記述方法
子音の発音は、以上の3つの要素を、(有声性)(調音点)(調音方法)の順に並べて記述します。
例えば、無声音であり、軟口蓋音であり、破裂音(閉鎖音)であるカ行の子音は「無声軟口蓋破裂音(閉鎖音)」のように書きます。
二つ以上の調音器官で調音が同時に同程度に起こる場合には調音点を二つ記述する。例えば英語の wood に見られる w の発音は「有声両唇軟口蓋接近音」のように記述する。
まとめ
今回は国際音声記号による子音の発音の記述方法を紹介しました。
子音の発音は有声性、調音点、調音方法という3つの要素で説明することができます。
- 有声性:声帯の振動
- 有声音, 無声音
- 調音点:調音(狭めや閉鎖)が起こる場所
- 両唇, 唇歯, 歯, 歯茎, 後部歯茎(硬口蓋歯茎), 歯茎硬口蓋(前部硬口蓋), 硬口蓋, 軟口蓋, 口蓋垂, 咽頭, 声門
- 調音方法:調音(狭めや閉鎖)の方法
- 破裂音(閉鎖音), 鼻音, ふるえ音, たたき音(はじき音), 摩擦音, 側面摩擦音, 接近音, 側面接近音, 破擦音
今後の記事では母音の発音の記述方法についても紹介します。そちらも是非ご覧ください。
参考文献・画像
•Shawar, I. (2007, March 11). File:Places of articulation.svg – Wikimedia Commons. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Places_of_articulation.svg?uselang=ja
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•Toutios, A., Lingala, S. G., Vaz, C., Kim, J., Esling, J., Keating, P., Gordon, M., Byrd, D., Goldstein, L., Nayak, K., & Narayanan, S. (2019, January 17). span | the rtMRI IPA charts.
•公益財団法人日本国際教育支援協会. (2021, November 5). 日本語教育能力検定試験の出題範囲の移行について. http://www.jees.or.jp/jltct/pdf/R4syutsudai.pdf
•国際音声学会. (2003). 国際音声記号ガイドブック : 国際音声学会案内 (国際音声学会, 編.). (竹林滋, 神山孝夫, 訳.). 大修館書店.
•川原繁人. (2020). 三省堂(川原 2018). http://user.keio.ac.jp/~kawahara/sanseido.html