一口に音声を研究するといっても様々な分野があります。この記事ではそれぞれの分野の簡単な特徴、違いについて書きます。勿論、分野といってもその境界は曖昧で、分野横断的な研究もありうるわけですが…
目次
音声学
音声学は音声による意思伝達の過程を科学的に探求する学問です。
川原 繁人先生の『ビジュアル音声学』では「『人間が音声を使ってコミュニケーションをとる時に何が起きているか』を科学的に探求する学問」 [川原, 2018]と説明されています。
さらに具体的に言えば、音声が口から発せられ、空気中を伝わり、耳に入って理解されるという3つの過程について調べる学問で、それぞれ調音音声学、音響音声学、知覚(聴覚)音声学という3つの下位分野をなします。
調音音声学
音声は、唇、舌、喉などの様々な調音器官の協調運動によって、生まれます。この協調運動を観察、分析するのが調音音声学です。
ヒトの器官の運動を対象としているという点で生理学的な研究分野だと言えます。
音響音声学
口から出た音声は空気中を圧力変化の連続、つまり疎密波となって進みます。この波を観察、分析するのが音響音声学です。
波を計測し、分析すると言う点で物理学的な研究分野だと言えます。
知覚(聴覚)音声学
耳に入った音声の波は電気信号となり脳に送られます。そこで様々な仕組みや基準によって意味を持った音声として解釈されます。そのような音声を解釈する仕組み、基準について分析するのが知覚(聴覚)音声学です。
認知について研究するという点で心理学的な研究分野と言えます。
音韻論
音韻論はある言語における音の機能や配列規則を探求する学問です。
ある言語の音素を研究したり、音韻変化の規則を研究したりします。菅原真理子先生は「音の配列や変化などのパターンを導き出す抽象化された原理や制約を探ることを目標とする分野」[菅原, ほか, 2014]と説明されています。
音声学と音韻論の違い
以上に見てきたように、音声学は音声の発生方法、伝達過程、解釈の仕組みなど音声そのものを研究する。それに対し、音韻論はある言語ではその音声がどのような意味・機能や変化規則を持つのかという母語話者の知識を研究するという性格の違いがあります。
また二つの違いは、音声学が音声の伝達という物理現象の実際を報告する記述的な研究であるのに対し、音韻論はそれらの結果を用いて、音の機能や特定の現象のメカニズムを説明する論証的な研究であるというような方法論の違いによって捉えることもできます。
まとめ
今回は音声の研究の簡単な分類と特徴を書きました。
- 音声学:音声による意思伝達の過程を科学的に探究する学問
- 調音音声学:調音器官の運動を分析する生理学的な研究
- 音響音声学:発声による音波を分析する物理学的な研究
- 聴覚音声学:音声の認知の仕組みを分析する心理学的な研究
- 音韻論:ある言語における音の機能や配列規則を探求する学問
調音音声学と音韻論については今後の記事でさらに詳述する予定です。よろしければそちらもご覧いただけると幸いです。
参考文献
•Liberman, A. M., Harris, K. S., Hoffman, H. S., & Griffith, B. C. (1957). The discrimination of speech sounds within and across phoneme boundaries. Journal of Experimental Psychology, 54(5). https://doi.org/10.1037/h0044417
•Shwar, I. (2007). File:Places of articulation.svg. Retrieved from Wikimedia Commons: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Places_of_articulation.svg?uselang=ja
•Toutios, A., Lingala, S. G., Vaz, C., Kim, J., Esling, J., Keating, P., . . . Narayanan, S. (2019, 1 17). span. Retrieved from the rtMRI IPA charts: https://sail.usc.edu/span/rtmri_ipa/
•公益財団法人日本国際教育支援協会. (2021年11月5日). 日本語教育能力検定試験の出題範囲の移行について. 参照先: JEES 日本語教育能力検定試験ホーム: http://www.jees.or.jp/jltct/pdf/R4syutsudai.pdf
•菅原真理子, 新谷敬人, 川越いつえ, 吉田優子, 三間英樹, 西原哲雄. (2014). 音韻論. 新宿区: 株式会社 朝倉書店.
•川原繁人. (2018). ビジュアル音声学. 千代田区: 三省堂.